サイバー安全保障とは、サイバー攻撃への対応を犯罪捜査や各社の自衛に任せるのではなく国家の安全保障として位置づけ、政府が攻撃の兆候を平時から把握し、被害が出る前に攻撃元のサーバーへ踏み込んで無害化することまで含めた政策領域を指す。日本では2025年に成立した「サイバー対処能力強化法」(能動的サイバー防御の関連法)がその法的な土台で、2026年9月17日に発足した第2次高市改造内閣では、デジタル大臣に就任した古川俊治氏が担当する。
何ができるのか
制度の柱は三つある。
一つ目は官民連携で、重要インフラ事業者にインシデントの報告を義務づけ、政府と事業者のあいだで脅威情報を流通させる。二つ目は通信情報の利用で、外国が関係する通信の情報を政府が取得・分析し、攻撃に使われているインフラを特定する。三つ目がアクセス・無害化措置で、攻撃元として特定されたサーバーに警察や自衛隊が侵入し、機能を止める。
従来のサイバーセキュリティ政策との決定的な違いは三つ目にある。これまでは「守りを固める」ところまでが政府の役割だったが、相手側の設備に手を出すところまで踏み込んだ。「能動的サイバー防御(アクティブ・サイバー・ディフェンス)」と呼ばれるのはこの部分だ。
エンジニアにとっての使い方
実務で接点が生まれるのは一つ目の柱、つまり報告義務のほうだ。自社が重要インフラに該当する場合、インシデントを検知してから誰がいつどこへ報告するかという経路を設計に織り込む必要がある。ログの保全期間、検知から一次報告までのリードタイム、CSIRT の連絡体制あたりが具体的な作業項目になる。
ただし施行は段階的で、報告の様式や対象範囲といった運用の細部は政省令やガイドラインで確定していく。現時点で公表されていない数値を前提に設計を固めるのは危険なので、所管省庁の公表資料を一次情報として追うのが確実だ。
料金はいくらか
サイバー安全保障は製品ではなく国の制度なので、利用料という意味での価格は存在しない。企業側で発生するのは、報告体制の整備、ログ基盤の増強、監視運用の人件費といった対応コストであり、これは自社の規模と現状の成熟度で桁が変わる。政府側の予算額も年度ごとに変動するため、この記事では具体的な金額は示さない(推測で書ける数字ではない)。
誰が担当しているのか
古川俊治氏は自民党の参院議員で、今回が初入閣。外科医と弁護士の両方の資格を持ち、英オックスフォード大学で MBA を取得している。党ではデジタル社会推進本部の副本部長を務めてきた。前任の松本尚氏に続く医師出身のデジタル相となる。
注目すべきは所管の集約だ。内閣改造前は経済安全保障担当相が持っていた科学技術政策、人工知能戦略、知的財産戦略、宇宙政策がデジタル相に移った。サイバー安全保障と AI 戦略が同じ大臣の下に置かれたことになる。攻撃側も防御側も AI 活用が進む領域なので、この配置が政策の速度にどう効くかは今後の判断材料になる。

