ASIC(Application Specific Integrated Circuit、特定用途向け集積回路)とは、ある決まった処理だけを行うために設計された半導体チップです。何でもこなすCPUやGPUとは違い、用途を絞ることで、同じ処理をより少ない電力とより速い速度で実行できるようにしたものです。
ASICとは:CPU・GPUとの違い
CPUは、どんなプログラムでも動かせる汎用のプロセッサです。GPUは、大量の計算を並列で処理するのが得意です。ASICは、処理内容をあらかじめ回路として焼き付けるため、得意な処理では無駄がありません。
一方で、製造後に回路を変えることはできません。用途が変わればチップを作り直す必要があります。製造後に回路を書き換えられるFPGAというチップもあり、試作や少量生産ではFPGA、量産して効率を突き詰める段階ではASIC、と使い分けるのが一般的です。
何に使えるのか:使い方の実際
エンジニアがASICを「使う」場面は、大きく2つに分かれます。
1つ目は、ASICを搭載した製品やサービスを利用する場合です。通信機器、暗号資産のマイニング機、AIの推論処理などで使われており、利用者はチップを意識せず、APIや機器を通じてその性能を使います。
2つ目は、自社でASICを設計する場合です。回路の設計・検証を経て、製造を外部の工場に委託するのが通常の流れです。完成したASICは単体では動かず、全体を制御するホストCPUと組み合わせてサーバーに載せます。
料金・コストの考え方
ASICには、汎用品のような「定価」がありません。費用の中心は、設計・検証・製造準備にかかる初期費用です。この初期費用は大きい一方、量産すれば1個あたりのコストは下がります。そのため、同じ処理を大量に、長期間行う企業ほど元が取れる仕組みです。
事業会社の企画・DX担当者にとっての現実的な選択肢は、自社でASICを作ることよりも、ASICを使ったクラウドサービスを選ぶことでしょう。具体的な価格は製品や契約によって異なるため、本記事では金額を示しません。
誰が作っているのか:AI向けASICの動向
AI分野では、大手IT企業が自社用のASICを開発する動きが目立ちます。当サイトで報じた例として、OpenAIが開発したAI推論向けASIC「Jalapeño」があります。
Tom's Hardwareの報道によれば、Jalapeñoはまず社内での利用を前提としており、より広く外部へ提供する可能性も否定していません。ホストCPUには、NVIDIAの「Vera」ではなくAMDのサーバー向けCPU「EPYC Turin」を組み合わせています。また、同社のハードウェア責任者は、Jalapeñoの設計にAIを活用したと説明しています。性能、製造元、導入規模は、現時点で確認できていません。
投資家の視点で見ると、AI向けASICの競争相手はGPUです。自社ASICが広がれば、GPUへの依存度やホストCPUの採用先が変わる可能性があります(これは筆者の見立てです)。Jalapeñoのホストにどのメーカーが選ばれたかが注目されたのも、こうした事情があるためです。
まとめ
ASICは「用途を絞り込む代わりに効率を最大化する」チップです。大量かつ継続的な処理には強い一方、初期費用が大きく、仕様変更もできません。AI分野では自社で設計する動きが進んでおり、どの企業がどのチップを組み合わせるかが、業界の勢力図を左右しはじめています。

